こちら豊島区池袋雑食課

トゲ?(その3)

前回の経緯

その1

その2

「横になっておきましょうか」

革張りの、粗末なソファというか台みたいな所に横になって、転がるようにして天を仰ぐ。どうにも具合が悪い。

実際、貧血というのは実は初めての体験だった。

これが貧血というやつか。じゃあよく全校集会とかで倒れてた体の弱い子とかは、いつもこんな思いをしてたのか。俺こんなの二度もなりたくないよ。こんなのを何度も経験しているなんて、体の弱い子ってのはタフだなあ。

もう気持ちが悪くて頭がぐらんぐらんして、とにかくまともに理性が働かない。
「そんなんアリエネーだろオイー」
「ヌオー、麻酔とかするだろフツー」
ってなガラの悪いガキじみた単語をぶつぶつつぶやく。
聞こえたりしたらそれはそれで困るので、壁に向かってちっさくちっさく吠えていた。見事にチンケな負け犬だ。
人間こんな時は品性が出る。もっと余裕もたなきゃダメだな。理想としては草刈正雄あたりを希望しているが。

医者は意識朦朧とした俺の様子をうかがいつつ、
「じゃあしょうがないんで、取り合えず麻酔うっときますか」と一言。おい、結局麻酔やるんか。
今までケチってた理由が全くわからない。一発ン万円とかかかるわけじゃなしに。

てなわけで、ぷっすり注射を打ってもらった。指の付け根、その手の甲と平の面にそれぞれ2本。

しかし、針を抜いたか否かというところで、もう例の注射針バイスできりきりやろうとするので俺はひっくり返りそうになった。
「わー! まだっ! まだ痛いですからっ」
とさすがに必死で懇願。もうこっちもなんだかわけ判らなくなってるし、いい加減見境とか言ってられない。医者コントまるだし。

「じゃぁ、麻酔が効くまでもうしばらく待ちましょうか」
それからしばらく、長く静かな沈黙が流れた。
夜も差し迫ってきた診察室の一角。こんな状況はなかなか困る。
(まったく、一体何やってんだか)というような怒りが沸沸と湧き上がった。誰に対しての怒りかはよく判らんが。

勿論、沈黙に慣れてない訳じゃない。例えばこれが床屋やタクシーだったら「いやぁ、今年の巨人はダメだねぇ…」とか「紅白の組み合わせ、決まったんだって?」くらいの事を言っていれば、まぁそれなりに間が持つもんだ。

ただ、こんな場面ではなかなかそうはいかない。

「あんたそれどころじゃないだろ」と言われればそこで終わり。詰みである。
このような場面に対しては、おれはあまりに経験が乏しい。積みたくも無い経験だが。

ややもあって、なんだか指がはれぼったい感じがしてきた。
いよいよ感覚がなくなったところで、処置が再開する。医者はさっきの注射針バイスと、ピンセットを取り出して何かやり始めた。さすがに今度は痛くない。

きりきりきり

ごりっ ごりっ

(うわぁ…)

痛いのは勿論耐えられないが、感覚が無い所へ自由自在にやられるのも、それはそれで気味が悪い。

きりきりきり

どうにもピンセットでつまめないのか、針先でカリカリ引っかいてこそぎ落とそうとしているらしい。

ごりごりごり…ぎりぎりッ、ぎりッ

しばらくの後、医者が手を止めてこちらへ向き直った。

「…うーん、とりあえず削り取ってみましたが、トゲらしいトゲは見当たりませんでしたねぇ」

え。

「まぁ、爪に穴あける時に削れてしまった事も考えられます」

…気のせいだったのか? いや、それだと朝触った時の激痛が説明できない。やはりもう削れてしまったのかもしれん。
そういえばと、ふと思い出した。こういうのは化膿すると大変だ、と病院行く前に周りに何度も言われていたのだが、そういう部分は大丈夫なのだろうかと思った。

「あのう、薬とか、消毒とかはとくにないんですか?」

「特に薬は要らない、と思います。一応消毒だけしときますんで、とりあえずまた痛くなるようでしたらまた来て下さい」

そう言い残すと医者はさっさと後片付けをしだした。

まだ話がつづくのだろう、と思っていたのだが、

「あ、もういいんですけど」

件の看護婦が俺の顔を一瞥して、無表情に言い放った。さっさと帰れといわんばかりの声音だ。

で、俺が帰ろうとすると、医者が俺の手元が汚れているのに気が付いて、
「消毒してあげて」と看護婦に促した。ほんで、なんか濡れたんだか濡れてないんだが判らんガーゼで拭って貰った。消毒用チンキの黄ばみは完全には取れなかったが、こういうものなのか?

と思っていたのだが、看護婦はそのままスイッと奥へ引き下がっていってしまったので、これで俺への処置は完全に終わったのだと判った。なんだかなぁ。

オマエはこれからハナキンか何かで、銀座あたりでコンパか何かやらかすのか知らんが、まずは目の前のケガ一本だろが。きっちりやってかんか。
コイツはあれだ、自分の気分を滲ませすぎだ。フォークダンスで嫌いな男子とカチ合った時に手では無くて裾を指でつまんでいたか、ポーズだけで触れないクチか。

何言ってるんだ俺。麻酔が脳髄にも少し流れてきてるかもしれん。
気分を切り替え、衣服をまとって一階へ降りる。会計してもらう。ちなみに初診千百八十円也。

さんざん指の麻酔をもったいぶるから一体何かと思っていたので、実際拍子抜けした。
なんでぇ、安いもんじゃねぇか。バカヤロウ、麻酔くらいでケチケチすんじゃねぇやい、と足立区梅島の土建屋的な愚痴を内心こぼしたが、財布を開けてビックリ。

札入れが空っぽだった。そういえばあわてるあまりお金をすっかり忘れていた。

「どうしました?」

事務員の事務的な笑顔が刺さる。

「えーと、どうしたっけかな~…へへっ」

なんてことを言いながらごそごそ探るが、いくら覗いたって俺の札入れは一つしかない。いくらのぞきこんでも、ドクターコパ御大の風水シールしか見えない。

「スイマセン、忘れてしまいました。しょうがないからコンビニで、ちょっくら下ろしてきますんで。へへっ、申し訳ない」

健康運どこか、金運まで最悪だ。あわててコンビニのATMへ駆け込んだが、右手がすっかりマヒしている為暗証番号は間違えるわ、お金を取り出すのに気を払うあまり、異様に挙動不審な動作になるわで大変だった。

ちなみに今指は痛くない。多分これでよかったんだろう、とは思う。
しかし、実質以上に色んなキズを負った週末の一日だった。
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by gesotoku | 2004-11-16 16:39 | 雑談・愚痴

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