こちら豊島区池袋雑食課

思い出を辿りに来た女。

 酒場というのは概して色んな客が来るものだが、長く商売をやっていると当方のあずかり知らぬ歴史まで持ち込まれてしまうこともあるらしい。
 いつものようにいつものバーに入って飲んでいると、店のマキ姉さんから「こないだ、すごい女性客がいたんだわ」という話をされた。

「30代後半くらいだったかな?気がついたら店の入り口にたたずんでて、ビックリして声をかけたら『あたし…この街に来たの、久しぶりなの』っていうわけさ」

 ハァ、そうっすか。
 聞くところに拠れば、どうもこの店が出来た以前の場所で、その女性はそれなりに多大で深甚なる思い出を引きずって、通りがかりに思わず何だか足を止めてみちゃったの、とかいう事であるらしかった。

「で、『そう…もうあの店はなくなったんだぁ…』とか言うから、前の店によくいらしてたんですね、って返したら、『ウン、今日はその想い出を辿りに…』って遠い目で言うわけ」
 
 俺はなんとも返答に困った。

「…んー、アナクロですけど、なかなか情緒深いっつーかドラマティックな人もいるもんですねぇ」
「でもねー、そこからが凄くって! あとでユージローが外国人と来て隣に座ったんだけど、いやにソワソワしだしたんだよね」

 ユウジローというのはこの店の常連で、帰国子女で英語堪能。外国人とネイティブかつフランクに渡り合う様は、見ようによってはそれなりに知的なやり手風にも見えるのだった。

「で、そのうち特に聞いても居ない事まで、自分からベラベラ喋りだしちゃってね。そのうち一方的に盛り上がっちゃってね、『えー、年収いくらなの~?』とか『ねぇねぇ、年上のオンナってどう思う? アハハ』とか言い出して、いきなりユージローや外国人にしな垂れかかっりして。まぁ~すごかったわ」
「…それは、大変だったんですね」
「キョーレツだったわぁ~」

 想い出を辿りに、あの頃の残滓に身を浸したいといったオンナの慕情はどこへやら、俺の中では瀟洒な淑女から、年甲斐無くはしゃぎまわる下品なナルシスオバハンにビジョンが挿げ替えられていた。南無。
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by gesotoku | 2005-11-10 11:01 | 池袋の話

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